遺言書とは
遺言書の必要性
遺言書とは、ご自身の死後の財産の分配や家族への意思を明確に伝えるための法的文書です。
遺言書を作成しないと、相続人全員の話し合いによって遺産の分け方が決める遺産分割協議を行う必要があります。
しかし、相続人以外に財産を残したい人や団体等がある場合(遺贈といいます。)や、不動産と金融資産をそれぞれ別の相続人に相続させたい場合、遺産相続で家族間で争いになることを避けたい場合などには、遺言書が必要となります。
適切に作成された遺言書は、相続トラブルを防ぎ、被相続人(故人)の意思を確実に実現する強力な手段となります。
遺言書に記載できる主な内容
- 財産の分配(誰に何を相続させるか)
- 遺贈(相続人以外への財産譲渡)
- 子の認知
- 相続人の廃除・取消
- 遺言執行者の指定
- 祭祀承継者の指定(お墓・仏壇など)
- 負担付遺贈・条件付遺贈の設定
など
遺言書の主な3つの種類(民法上)
遺言書には、遺言者自らが手書きで書く「自筆証書遺言」と、公証人が遺言者から聞いた内容を文章にまとめ公正証書として作成する「公正証書遺言」、内容を秘密にしたまま、存在だけを公証人と証人2人以上で証明してもらう「秘密証書遺言」の3つがあります。
① 自筆証書遺言(じひつしょうしょいごん)
自筆証書遺言とは、遺言者が全文を自書し、日付・氏名を記入し、押印して作成する遺言です。
自筆証書遺言書には、どの相続人に、どの財産を、どのように分割するかを具体的に記載しておく必要があります。
紙と筆記用具があればいつでも作成でき、最も手軽な遺言方式ですが、法的要件を満たさないと無効になる恐れがあります。
民法で定められた必須要件(民法968条第1項)
- 全文を自書(手書き)すること
パソコンや代筆、録音は無効です。
※ただし、添付する財産目録は自筆でなくてもかまいません。 - 日付を自書すること
「令和○年○月○日」と具体的に記載します。
「○月吉日」や「2025年春」など曖昧なものは無効になります。 - 氏名を自書すること
住民票に記載されているとおりに遺言者の氏名を遺言者自らが署名します。 - 押印すること
実印でなくても認印でよいですが、拇印は争いのもとになるので避けるべきです。
財産目録の特例(同第2項)
以下のような書類を財産目録として添付することができます。
- パソコンで作成した一覧表
- 不動産登記事項証明書の写し
- 預金通帳のコピー
この場合、各ページごと(紙の両面に記載する場合は、両面とも)に氏名を自書し、押印することが必要です。
遺言書(財産目録を含む)の変更(同第3項)
遺言書を変更する場合には、変更場所を指示し、押印します(二重線を引き、訂正印を押す)。
そして、変更した旨を付記して署名します。
長所と短所
長所:
- 公証人や証人の手配が不要で、作成費用がほとんどかかりません。
- 自宅で手軽に作成でき、自由に修正もできます。
- 作成・保管を完全に個人で行え、内容を秘密にできます。
短所:
- 法的要件を満たさないと無効になるおそれがあります。
- 自宅保管では、紛失や相続人に発見されないなどのおそれがあります。
- 遺言書を改ざん・偽造、破棄されるなどのおそれがあります。
- 遺言書の保管者や相続人が家庭裁判所に遺言書を提出して「検認」を受ける必要があり、検認を受けるまでまで遺言の執行ができません(数週間かかる場合もあります)。
法務局による自筆証書遺言書保管制度
自筆証書遺言書を安全に保管できる制度が、2020年から実施されました。
概略は次のとおりです。
なお、別に「【完全ガイド】自筆証書遺言書保管制度とは? 特定行政書士が詳しく解説!」で詳しく説明しています。
● 制度の特徴
- 自筆証書遺言書を法務局に本人が持参し保管してもらいます。
- 家庭裁判所の「検認」が不要になります。
- 遺言者が亡くなったとき、あらかじめ指定された相続人等へ遺言書が法務局に保管されていることを通知してもらえます。
- 遺言者が亡くなった後、相続人が法務局で遺言書情報証明書(遺言書の画像情報を表示したもの)の交付、遺言書の閲覧が可能になります。
- 法務局で保管するので、改ざんや紛失の心配がありません。
● 注意点
- 内容の法的チェックはされません(形式のみチェック)。
- 申請には予約が必要で、本人の出頭が原則となっています。
② 公正証書遺言(こうせいしょうしょいごん)
公正証書遺言とは、証人2人以上の立会いのもとに、遺言者が公証人の面前で遺言内容を口述し、公証人がこれを文書にまとめて作成する遺言書のことです。
遺言の原本は公証役場に厳重に保管されるため、最も安全性・信頼性の高い遺言方式です。
公正証書遺言の作成方式(民法969条)
- 遺言者本人が、公証人と証人2名の前で、遺言の内容を口頭で告げます。
なお、証人には、 未成年者、推定相続人、 遺贈を受ける者、 推定相続人および遺贈を受ける者の配偶者および直系血族等はなることができません。 - 公証人が、それが遺言者の真意であることを確認した上、これを文章にまとめます。
- 公証人が、作成した文章を遺言者と証人2名に読み聞かせ、または閲覧させて、内容に間違いがないことを確認してもらって、各自が署名し、押印して、公正証書遺言書とします。
- 遺言者は、公正証書遺言書の正本1通と謄本1通の交付を受けます。
遺言者の死後、これを利用して遺言執行を行うことができます。
なお、原本は公証役場に公正証書遺言書作成後140年または遺言者の生後170年間保存されます。
長所と短所
長所:
- 正確な法律知識と豊富な実務経験を有する公証人(裁判官、検察官または弁護士等の経験者)が内容・形式ともに確認するため、法的不備はおきません。
- 家庭裁判所での「検認」が不要で、相続の開始後、すぐに遺言内容を執行できます。
- 原本は公証役場で保管されるので、紛失や改ざんの心配がありません。
- 公証人が遺言者から告げられた内容を遺言書に記載するので、遺言者が手書きするのは署名だけであり、遺言者が病気等のために署名をすることができないときは、公証人が遺言者の署名に代わる措置をとることができます。
- 遺言者が高齢や病気等のために公証役場に出向くことが困難な場合は、公証人が遺言者の自宅や病院等に出張して、遺言書を作成することができます。
- 証拠力が極めて高く、裁判でも極めて有効な証拠として扱われます。
短所:
- 公証人への手数料がかかります。
- 利害関係者以外の証人2名が必要です。
- 一般的には公証役場との調整が必要なため、公正証書遺言書の作成まで1〜2週間ほどかかります。
③ 秘密証書遺言(ひみつしょうしょいごん)
秘密証書遺言とは、遺言の内容を秘密にしたまま、公証人に遺言書が存在することを証明してもらう遺言形式のことです。
公証人が証明することによって、遺言書が間違いなく遺言者本人のものであることを明確にでき、かつ、遺言の内容を誰にも明らかにせず、秘密にすることができます。
秘密証書遺言の作成方式(民法970条)
- 遺言者が、遺言の内容を記載した遺言書を作成し、その遺言書に自筆で署名し、押印します。
ワープロで作成することも可能ですが、自筆証書遺言書の方式で作成しておくと、もし秘密証書遺言書の方式にかけるものがっても、自筆証書遺言書として扱ってもらえます(民法971条)。 - 遺言者が、その遺言書を封筒に入れて、遺言書に押印した印章と同じ印章で封印します。
- 公証人と証人2名の前にその封書を提出し、自己の遺言書である旨ならびにその筆者の氏名および住所を申し述べます。
- 公証人が、遺言書を提出した日付および遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者と証人2名とともにその封紙に署名し、押印することにより、秘密証書遺言書とします。
- 秘密証書遺言書は、遺言者本人が持ち帰って保管します(公証役場では預かってもらえません)。
長所と短所
長所:
- 遺言の内容を誰にも知られずに済みます(公証人、証人も見ません)。
- 自書である必要はないので、パソコン等を用いて文章を作成しても、第三者が筆記したものでも構いません。
- 公証人が「確かに存在した」と記録してくれるため、遺言の存在を公的に証明できます。
短所:
- 公証人は、遺言書の内容を確認できないので、法律的な不備や曖昧な表現などで無効となるおそれがあります。
- 遺言書の死亡後には、自筆証書遺言と同じく家庭裁判所の「検認」を受けるが必要があります。
なお、秘密証書遺言は、法務局の遺言書保管制度を利用することはできません。 - 遺言者自身が保管する必要があるため、紛失、破棄、隠匿や改ざんのおそれがあります。
- 公正証書遺言と同様、利害関係のない証人2名が必要です。
まとめ
自筆証書遺言は、
- 費用をかけずにまずは「意思を形にしたい」
- 財産構成がシンプル(配偶者と子のみ、不動産1件など)
- 法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用できる環境にある
- 緊急で自分だけで準備する必要がある場合
などに当てはまる方には、向いている方式といえます。
公正証書遺言は、最も安全で確実な遺言書の方式です。
作成までに時間と手間はかかりますが、その分、死後の相続トラブル防止・円滑な相続手続きの確保に大きな効果があります。
より安全に、確実にご意思を残したい場合は、公正証書遺言とすることをおすすめします。
秘密証書遺言は、 内容の秘密性と法的効力のバランスをどうとるかがカギです。
公正証書遺言と比べるとややマイナーですが、適切なサポートのもとで作成すれば有効な選択肢となり得ます。
項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | 秘密証書遺言 |
---|---|---|---|
作成の確実性 | △(方式不備の恐れ) | ◎(プロが関与) | △(公証人が内容確認しない) |
内容の秘密保持 | ◎ | △(証人含め内容把握) | ◎ |
検認の要否 | 必要(自筆証書遺言書保管制度利用の場合は不要) | 不要 | 必要 |
費用 | 無料〜少額 | 高め | 中程度(証人・公証人費用) |
保管 | 自己・法務局 | 公証役場 | 自己 |
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